• いま、サラリーマンに
    「恋の力」が必要な理由とは

    遠山 正道株式会社スマイルズ 代表取締役社長

    2018.05.28

「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、新しい生活のありかたを提案し続けているスマイルズの代表取締役社長・遠山正道さん。SOCIAL OUT TOKYOの理念にも通じる、「人の熱意を大切にした経営デザイン」をテーマにお話しいただきました。プレゼンテーションに散りばめられた、#自分ごと、#アート、#素直、#作品性、#メッセージ、#価値、そして#恋といったキーワード。それらはすべて、「自分のやりたいことをやる」というトキメキから生まれたもの。この日のワークショップのテーマでもある「好き」を仕事の原動力にすることの大切さが、ひしひしと伝わってくる基調講演となりました。

以下、容量の関係により、一部内容を割愛させていただきながら、そのエッセンスを余すところなくご紹介します。

プロローグ: 自分の庭先

SOCIAL OUT TOKYOは「究極の公私混同」がコンセプトとのことですので、イントロダクションとして私からは「自分の庭先」という話をしたいと思います。誰かのためによかれと思ってはじめたことって、「やってあげてるのに感」が増えてしまうことがありますよね。それよりまず、自分の庭をちゃんと整える。自分の庭は適当にしておいて、人の庭のことばっかり言う村って、なんかイヤじゃないですか。周りのことばかり言って、自分のことが疎かになっているよりも、一人ひとりが自分の庭をしっかりつくっていった結果、全体の景色がよくなる。そっちのほうがいいな、と思っています。

ビジネスがアートに学ぶべきこと

スマイルズでは「自分ごと」という言葉をよく使っています。ビジネスって、大変なことだらけ。うまくいくことのほうが少ない。だからこそ「自分たちなりの必然性とやりたい気持ち」からスタートしていかないと、うまくいかなかったときに、誰かのせい、政治や経済のせい、環境のせいにしてしまう。作家(絵かき)は何の絵を描くか、アンケートなんか取らないですよね? 何の絵を描くのかこそが重要で、おもしろいところ。だから、仮にその絵が売れなくても失敗作にはならない。心に傷はつかない。他人から言われた絵をそのまま描いて、おまけに売れもしない。そんな変なスパイラルになってしまうのはちょっと、ね。

アートといえば、遠山さんは三菱商事に在籍中、突然、代官山のヒルサイドテラスで絵の個展を行なった。

合理的な説明ができないことこそが大切

当時、このまま(三菱商事に)定年までいても満足しないな、ということだけははっきり感じていたので、なぜか絵の個展をやりました。どうして?と聞かれても、合理的な説明ができないんです。でも、それが結果的によかった。あのとき、絵の個展をやったことが、今日まで地続きでつながっています。ちなみに、スマイルズはマーケティングをしません。「作品性」という言葉をキーワードに、世の中に対して自分たちの「作品」という概念を打ち出すというビジネスをしています。合理的な説明ができることは、裏を返せば、合理的な説明で打ち返されてしまうんです。上司とか監査とかコンサルなんかに立派なこと言われて、こちらも「そうですね」なんて言って、そこで話が終わってしまう。そうすると、議論がしやすい数字の話ばかりに流れてしまうんですよね。でも、本当に大事で、進めなきゃいけないことというのは、概ね言葉にならないものです。数字にならない。うまく説明できない。「好きだから」って理由は、会議室では言いにくいじゃないですか。でも、だからこそ、そういう言語化しにくいけれど本当は大切な「好き」という気持ちに強い意志を持って、言語化できるところは言語化しながら行動に移して、前に歩んでいくことが大切なんだと思います。

例えば、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」、ネクタイ専門店「giraffe」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁 山登り」。スマイルズでは、一見すると関連性を見出しにくい複数の事業が同時に展開されています。それぞれの話を伺うと、通底している大切なことが見えてきました。

Soup Stock Tokyo: はじまりは、
シーンを描いた「物語の企画書」から

Soup Stock Tokyoをはじめて、そろそろ20年が経ちますが、だいぶ顔立ちがはっきりしてきました。世の中って、行ったり来たりしますよね。経済も、流行も、嗜好性も。そして、時代が大きく振れるほど、流されずにいる人は顔立ちがはっきりしてくる。ちゃんと浮き上がってくるものがあります。流されてしまうって、本当に怖いことですよね。「あ、そっち行っちゃったね」って思われるのは怖い。Soup Stock Tokyoは、私自身が書いた「物語の企画書」から始まりました。全部過去形で書かれた、小説風の企画書です。内装やリーフレットはこう、というような細かなことから、JALの機内食をやった、というようなことまで、まるで事実を回想するように書きました。そして、その企画書に記したことは、ほぼその通り、いま現実になっています。1枚の絵を描くように細かく書かれた企画書でした。1枚の絵を描くのって、大変なんですよね。そのシーンが細かく想像できないといけない。つまり、企画に具体性がないといけないからです。

giraffe: 立ち戻れる強い
メッセージがあることの重要性

「サラリーマン一揆」をコンセプトにしたgiraffeを思いついたのは、Soup Stock Tokyoより前のことです。giraffeには、社会や会社に首を絞められるのではなく、自分で自分の首をキュッと締めて、キリンのように高い視点で遠くを見つめる。一人一人がそうすることで社会はもっとよくなるだろう、というメッセージがあります。当時、「世の中をよくするためには、ネクタイです」って上司にプレゼンしたら、「意味がわからない」と(笑)。数年後、ようやく機が熟したと思って、別のアパレル部門の部長をランチに誘い出し、「実はいいプランがあります。ネクタイです」ってプレゼンしました。そしたら(Soup Stock Tokyoができて4、5年後のことだったので)「君はスープを売っていなさい」と言われて(笑)。2度提案したからもういいかなと思って、当時は兼業制度もなかったので、妻に代表になってもらって有限会社ジラフを作りました。実は、giraffeでは一時期レディースも扱っていたことがあります。ネクタイって、女性がギフトでお求めになることが多く、売り場自体がレディースフロアにあることもあるんです。そこで、ネックレスなど、女性の首まわりのアイテムを置いてみたのですが、あるとき、「あれ? なんでレディースをやっているんだっけ?」「サラリーマン一揆とどこに関係があるんだ?」とハッとして。そもそもこういう思いから生まれたんだ、という、当初の想いに立ち返り、レディース商品を扱うことをやめました。いつでも「なんでやっているのか」と立ち戻れるためのスタート(コンセプトやメッセージ)が強くあること。それこそが大事だな、と思うわけです。

刷毛じょうゆ 海苔弁 山登り:
誰かのためではない、自分たちの作品性

海苔弁 山登りは、8年ほど前に「何が好き?」という話の中で、「お弁当」というキーワードが出て、ワークショップを開催したり、JALの機内食でも1回トライするなどした経緯の後に、GINZA SIXさんから声をかけてもらったことで誕生したブランドです。開店して1年ほど経ちますが、ありがたいことに今でも行列ができています。実は、オープン2週間前に事業部長との経営会議があり、その席で「(この海苔弁は)どういう人が買ってくれるんだっけ」という話になりました。丸の内だったらOLさん、東京駅だったら新幹線に乗る前の人、と想像できるけれど、銀座の真ん中で、どういう人がこの海苔弁を買って、食べるのかが想像できなかった。でも蓋を開けてみたら、観光客の方から会社員の方までいろんな方にご好評をいただいています。スマイルズでは、誰かのために、というよりも、自分たちがこれというものを提示したい、と考えています。事業をはじめるときには、ターゲット像を細かく決めて、そこに向けてスタートする、ということが一般的な手法としてありますが、人のことまで規定するのって、規定される側、つまり、お客様からしたら、「勝手に決められたくないわい」ってなるじゃないですか(笑)。だから、自分たちが好きなこと、できること、やりたいことをしっかりやるっていうのが、社会とのいい関係性なのかなって思います。

やりたい、ということの4行詩

経済の時代だった20世紀に対し、21世紀は文化・価値の時代と私は言っています。当たり前のことを言うようですが、価値あるものに価値があり、価値ないものには価値がない。だから、「やりたい、ということの4行詩」が重要なんです。つまり、やりたいということに出会い(=トキメキ)、必然性(=自分のこと)を根っこにして、意義(=対外的な理由)を加えて、なかったという価値(=オリジナル)を創る。ビジネスのほとんどは大変なんだから、「やりたい!」というトキメキからスタートしたい。うまくいくまでには、「なんでやっているんだっけ?」と思うことも多い。そんなとき、「だからやっているんだ」と立ち戻れるところがないと、議論すらできないじゃないですか。だから、最初の一球は自分で投げる。どんなメッセージを出発点として、それを大切にして、人々に共感してもらうか、ということが大切なんだと思います。

小さいからこそ、思い切ったことができる

以前、講演に呼ばれた際に、「三菱商事時代と今とで何が違いますか?」という質問を受けました。実際は違うことだらけなんだけど(笑)、「人生という言葉を使うようになりました」と。その答えには、森岡書店(※1)や檸檬ホテル(※2)のように、仕事と個人の人生が直結している、という意味がある一方で、私はブランドを人物に置き換えて語ったりもするんです。スマイルズには、いくつかのブランドがありますが、それぞれ見事に人格が違うんですね。Soup Stock Tokyoは誠実な人、PASS THE BATON(※3)はファッショニスタ、など。それぞれのブランド(=人格)の人生という感覚が持てるといいなと思います。私はスマイルズという100人くらいのちっちゃな会社をやっていますが、会社が個人と結びつくことができるサイズ感なんです。新規事業をするときのひとつの大きな壁は「規模」だと思っています。なぜかみんな、事業となると、どうしても大きな規模で考えたくなっちゃうんですよね。でも、いきなりは無理ですから。そういう意味で、企画のつくりかた、話の通しかた、規模の広げかたにはコツがあると思いますね。

※1 森岡書店…銀座の5坪の売り場で、オーナーの森岡督行さんが選んだ一冊の本だけを売っている書店。オープン3年目にして、イギリスやフランス、中国、韓国など、世界中で話題になっている。※2 檸檬ホテル…スマイルズの社員が夫婦で香川県に移住し、瀬戸内の豊島で運営しているホテル。スマイルズが瀬戸内国際芸術祭に作家として出展している作品でもある。※3 PASS THE BATON…「NEW RECYCLE」をコンセプトにスマイルズが運営する現代のセレクトリサイクルショップ。個人のセンスで見出された品物に、それまでの持ち主の顔写真とプロフィール、品物にまつわるストーリーを添えて販売している。

孫会社くらいの会社に行って、
とにかくやっちゃえばいい

Soup Stock Tokyoをやろうと思った当時、まず、日本ケンタッキーフライドチキンに出向しました。当時、三菱商事の情報産業グループにいたので、出向理由としては、通信衛星を利用して何か発信するとか、適当な企画書をつくって(笑)。でも、ケンタッキーは本社がアメリカにあり、なおかつ自社でスープを扱っていて、Soup Stock Tokyoが同事業と捉えられると話がややこしくなるからどうしようか、となりました。だったら、日本ケンタッキーフライドチキンの社長の個人会社でやろうと。そうすると、社長一人のハンコで決裁できますよね。そうやってSoup Stock Tokyo 1号店という既成事実ができてから、三菱商事に戻りました。具体的なモノがあると、なんかおもしろそうだね、って、三菱商事の偉い人もハンコを押してくれる。皆さんも、何かやりたいことを見つけたら、会社が大きければ大きいほど、孫会社くらいの辺境あたりから具体的に始めちゃうといい。で、「もう取り返しがつきません!」みたいな状況にしちゃえばいいんです。最近、私は、ちっちゃなミュージアムを世界に100個つくろう、という「The Chain Museum」というプロジェクトを始めましたが、マネタイズの方法はいまだにわかっていません(笑)。やりながら考えるっていうね。そういうのがおすすめです。

これからは、サラリーマン時代は終わり、
個人商店の時代に

こんなこと言っちゃなんなんですけど、この先、サラリーマン時代ってなくなると思うんですよ。個人商店の時代に戻る。江戸時代の頃って、8割くらいは個人商店、つまり個人事業主だったのではないかと思うんです。残りの2割くらいが役人で固定の給料をもらっていた感じですかね。一方、今は、8割くらいの人がサラリーマンとして給料をもらっていて、2割くらいが個人商店(個人事業主)ですよね。(あくまでも感覚値ですが)。それがまた、個人商店の時代に戻る、と。冗談じゃなくて、サラリーマンじゃいられなくなるって時代が来ると考えています。だからこそ、世の中に価値を提示できている感覚を、いまサラリーマンの方も早くから身につけたほうがいいと思う。価値って、どういうものかっていうと、「やる意味」なんですね。自分たちの価値、やる意味ってなんだっけ。そこを掘り下げて、きちんと提示する。そうすれば、うまくいけば次回があるし、ダメでも「やりきったな」って思えるから、「じゃ、次いこう」となれる。「なんか流行っているらしいから」っていう理由は、失敗のしがいがないですよね。自分たちなりの価値をどう乗っけられるか、ということが重要なんです。さらに言うと、会社には企業としてのブランドもお金もあるじゃないですか。そもそもサラリーマンというビジネスモデルはすごいもので、そんな最高な環境はないですよ。新入社員ですら初月から黒字が約束されている(笑)。その環境下で、どうやったら自分だけの価値を提供できるのかを考えるのがおすすめです。1回フリーになってからサラリーマン時代の環境を振り返ると、めっちゃよかったな、って思うと思います。だから今のうちに、サラリーマンであるメリットを存分に使っておいたほうがいいと思います。「イノベーション」とか会社が言い出したら、言質取れたようなもんですね。私が三菱商事にいたときに、社長が年始の挨拶で「個人の創造力」という言葉を使ったんです。当時は、そんな言葉聞いたことがなくて、いいこと聞いちゃったな、と。何かのときには、「社長! 先日、個人の創造力って言っていましたよね?」って言えるなって(笑)。

エピローグ: 独立自尊

独りで立って、自らを尊ぶ。それが社会にとって一番大事だ、っていう、福沢諭吉の教えを最後に。すごく、いまに通じますよね。一人ひとりが自分ごとになって、誰かのせいにしないで、自分で認めて、自分たちでできることをしっかりやっていけば、社会全体がよくなるはず。そうすると相手のことも認められて協力していける。まずはそこから。ちっちゃくはじめるのが、いいですよね。

遠山さんのお話は、大切に胸にしまって、ことあるごとに引き出しから取り出して眺めたくなるような金言ばかり。最後に、その中からひとつ、自分の仕事についての一節をご紹介して締めくくります。


「自分の仕事は、恋のよう」

1.恋も仕事も、自分がするもの
恋も仕事も他人はやってくれない。
自分の恋は、自分にしかできない。
自分の仕事は、自分にしかできない。
2.相手がなければ、恋は説明できない
夢は何? やりたいことは何? と聞かれても、心配することはない。
まだ相手に出会えていないのなら、うまく説明はできない。
3.恋するために、日々研鑽
いまは恋に出会えていなくても、恋に出会うために、日々研鑽。
恋をするなら、魅力的にならなければ出会えない。相手にされない。
4.恋に関心をもつ
どんな人が好きなのか。どこに行けば出会えるのか。
自らが、自らに関心をもつ。
5.恋に妥協しない
失敗しても納得できるような、高い理想の恋をする。
6.恋に出会ったら、小躍りしよう
そんな小躍りなんて、一生に何度もないのだから。
7.恋に出会ったら、なんとしてでもものにする
手段や、合理的な理屈を言っている場合ではない。
上司の顔色や制度のせいにするのはやめよう。
理想的な恋に出会ったら、なんとしてでもものにする。
だって恋なのだから。
8.恋は、誰が誰にするのか
組織で恋をするのは聞いたことがない。
誰が誰に恋をするのか。
9.出会いがしらも恋
不意に、訳もなく、出会いがしらで恋に落ちることもある。
まっとうな説明なんかできやしない。
だって好きなのだ、としかいいようがない。
10.オリジナル・ラブ
二人の他人が恋をする。
それはオリジナルでしかない。
誰々ふうの恋、なんて想像してはいけない。
11.結婚は、まわりを巻き込むこと
恋から結婚にいくなら、二人だけではできない。
両親や親戚、仕事場、いろいろな人を巻き込むことになり、これには責任が伴う。
もはや二人ではない。まわりを説得し、味方につけなければいけない。
12.すべての人が、恋をする
自分の人生、恋をするのに、遠慮なんていらない。
誰だって恋をする。
13.恋は、人を幸せにする
二人はもちろん、恋はまわりの人も幸せにする。
遠山 正道
株式会社スマイルズ 代表取締役社長
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。
遠山 正道
株式会社スマイルズ
代表取締役社長
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、コンテンポラリーフード&リカー「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

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