ブランディングカンパニーが明かす、
SOCIAL OUT TOKYO立ち上げの背景
千布 真也AMD株式会社 代表取締役社長
金山 大輝AMD株式会社 プランナー
2018.05.28
よりよい社会づくりに挑戦し続けるリーダーと、企業の未来を担う担当者が一堂に会し、これからの時代に求められる「事業の中心に社会性を捉えたサステナブルな企業活動」を模索する事業共創プログラム「SOCIAL OUT TOKYO」。キックオフを兼ねた第一回では、プログラムを立ち上げた経緯や、運営主体であるAMDの取り組みについても語られました。
以下、AMDのプランナーであり、SOCIAL OUT TOKYOの生みの親、金山によるイントロダクションから、一部を抜粋してご紹介します。
AMDは広告・デザインの業界でブランディングや、それに紐づくクリエイティブ制作の仕事をしてきた会社です。しかし、依頼された仕事をこなすだけでなく、企業が抱える本質的な課題に迫ったご提案を行なうためには、クリエイティブワークの先にある、クライアントのビジネスそのものや、さらにその先にある社会にまで立ち返り、「いま、そして、未来に向けて、その企業は何をしていかなければならないか」を考え抜く必要があります。そこで、AMDが日常的に思考している、企業の本質、社会的意義を改めて探求するアプローチを共有するとともに、様々な社会的活動のリーダーからも学びを得て、これからの事業の種を実践的に見つける場があってもいいのではとの思いから、SOCIAL OUT TOKYOを立ち上げるに至りました。
まずはブランドアイデンティティの変化。今までは商品・サービスがよければモノは売れたのですが、モノが溢れる今となっては、企業そのもののありかたや、企業が持つビジョン、商品のストーリーなどが重要視される時代になりました。市場の成熟とともに、商品やサービスに求める便益も変わってきています。機能的な便益だけでモノが売れていた時代は過ぎ去り、デザインや使用感が素敵、ブランドとしての魅力を感じるといった情緒的な便益へ、さらには「それを持っていることが、はたして自分のアイデンティティを象徴しているか」といった自己実現的な便益が問われるところまで生活者の意識は変わってきました。もう1つ大きいのが、ここ数年、急速に変わりつつある生活者の価値観やインサイト。リーマンショックで見えた資本主義の限界。震災を通じた意識の変化。ミレニアル世代以降の新しい価値観。テクノロジーの台頭によって生じる「人間はどう生きていくべきか」という哲学的な問いへの意識。Uターン、Iターン、多拠点生活。人生100年時代。新しい働き方ってなんだろう。ときを同じくして国連では、SDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)という、2030年に向けた社会的課題におけるな17の国際目標が採択され、日本においても徐々に実装フェーズに入ってきました。並行して、「環境・社会・ガバナンス」といった企業の社会的責任を考慮した投資活動であるESG投資の熱も、大きな高まりを見せています。これらがすべてというわけではありませんが、様々な要因が複雑に重なり合いながら、「人生における社会的意義」「人間らしい生き方・働き方」への意識が急速に高まっているのは、皆さんも実感としてあるかと思います。そして、これらは当然ながら、企業における事業活動、ブランドづくりにも、大きく影響を及ぼし始めています。これからは、本業とは別で行なうCSR活動ではなく、本業そのものにサステナブルな仕組みや、社会的意義、社会的価値を取り入れることが、世の中からの支持獲得につながる時代です。AMDはこの状況を、企業が自社の原点や理念をもう一度見つめ直し、これからの事業のありかたを探求する絶好の機会と捉え直し、その学びの場、実践の場として、このようなプログラムを企画しました。
プログラム名の由来にもなっている「ソーシャルアウト」という考え方にも思いが込められています。特に近年、こういった社会的な領域に関するセミナーやシンポジウムなどが増えてきました。テーマが社会課題なので、当たり前といえば当たり前なのですが、大きな課題に対して真正面から真剣に、深刻に考えるようなものがほとんどです。それ自体を否定する気はありませんが、個人的には、社会的な取り組みほど理性だけでなく感性が重要で、やらないといけないから、ではなく、自分たち自身が楽しみながら、やりがいを持って取り組めるものでないと、なかなか大きなアクションにつながらないのでは、と感じています。いきなり重たい社会課題から逆算して、頭を抱えながら事業を検討するソーシャルインのアプローチではなく、とにかく自分はこれがやりたいんだ、これが好きでなんとかこれを活動として広げていきたいんだ、という熱い思いを中心に据え、自由に社会に発信していく(ソーシャルアウトしていく)ほうが気持ちがいい。実際、世の中、最近だとクラウドファンディングなんかで支持を集めている多くの活動は、こうしたアプローチで生まれています。このプログラムでは、自分が本当にやりたいこと、自分の好きの原点を見つめ直し、それを自社やここに集まった方々のリソースと掛け合わせることで何ができるかを、メンバー全員で検討していきます。目指すのは、究極の公私混同。ネガティブな印象を受ける人もいるかもしれませんが、こういったソーシャルな活動、社会的意義のある活動ほど、自分の中にある個人的な思いや好きの力を原動力に、小さな一歩をまず踏み出すことが大切。その実践の場こそが、ここ、SOCIAL OUT TOKYOです。これから半年間、よろしくお願いします。
以下、AMD代表・千布のプレゼンテーションから、一部を抜粋してご紹介します。
今年13期目を迎えるAMDにとってのターニングポイントは、2011年の東日本大震災でした。日本中が、支援をしなきゃ、何かしなきゃ、という流れのなかで、当時、デザインワークのみを仕事として行なっていた僕たちには、何も為す術がありませんでした。そのとき初めて、「仕事って、社会から必要とされていなければならない」「仕事には大きな社会的価値がなければいけない」と気づきました。仕事を、より人の命やぬくもりに近い場所で行ないたい。そのためには、自分たちの仕事の価値をもっともっと上げていかなければいけない。そんな使命感に駆られました。そのとき感じた思いがもととなって、「様々な困難をのりこえ、世界から必要とされる企業に」という自社のビジョンや、「クリエイティブの社会的な存在価値の向上」というミッションが生まれました。仕事の内容や質、企業としての成長においても、その年を境に大きく変わり始めました。
SOCIAL OUT TOKYOだけではない。社会と深い関わりを築いていくための、クリエイティブの枠を広げたAMDの新たな取り組みを最後にいくつかご紹介します。
実際に現地に足を運び、図書館を運営する方々と話し合いを重ねる中で、「どういう子が、どういうことに興味をもって、どういう本を借りていったか。それをデータベース化して蓄積していきたい」というニーズが見えてきました。そこで、子どもたちの学力を把握したり、これから先どういった本が必要になってくるかを予想したりできるようにするためのシステム構築を僕たちが担いました。自分たちの技術がどういう人に使われて、どういった喜ばれかたをしているのかを、目で見て、肌で感じることができた貴重な仕事の1つです。